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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)86号 判決

東京都三鷹市井口三五七番地

原告

榎本武男

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

小酒禮

右指定代理人

山内敦夫

小林康行

曾根原邦重

加藤広治

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和六二年四月三日付けでした東裁(諸)六一第一二四号の裁決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原処分

武蔵野税務署長は、

(一) 昭和六一年五月二六日付けで原告に対し、同五七年分所得税(更正及び賦課決定分)について督促し、

(二) 同六一年六月二五日付けで原告に対し、同六〇年分所得税(確定申告分)について督促し、

(三) 同六一年六月三日付けで東京国税局長に対し、右督促に係る所得税等について、交付要求をした。

2  異議申立て及び決定

原告は右1(一)ないし(三)の各処分を不服としてそれぞれ昭和六一年七月三日に異議申立てをしたが、異議審理庁は同年一一月五日付けで右申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。

3  審査請求及び裁決

原告は右決定を経た後の右各処分をなお不服として、同年一二月五日に審査請求をしたが(東裁(諸)六一第一二四号)、被告は同六二年四月三日付けで右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

4  本件裁決の違法事由

(一) 本件裁決中、昭和六一年五月二六日付け督促に関する部分は、当庁昭和六二年(行ウ)第七六号裁決取消請求事件の帰趨をまたないで下されたもので、違法である。

なお、右事件で原告が取消を求めている裁決の原処分は、原告の昭和五七年分所得税に関する更正及び過少申告加算税賦課決定である。

(二) 本件裁決中、昭和六一年六月二五日付け督促及び同月三日付け交付要求に関する部分は、その滞納国税を受動債権とし、原告が被告又は国に対して有する金五億円の損害賠償請求権を自動債権として、本件訴状の送達により相殺する旨意思表示したから、原告の滞納がなくなり、違法である。

よって、原告は本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否並びに被告の主張

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  同4(一)の事実は認め、本件裁決中の当該部分が違法であるとの主張は争い、同(二)はすべて争う。

原告は何ら本件裁決固有の瑕疵を主張していない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  原告は、本件裁決中、昭和六一年五月二六日付け督促に関する部分は、当庁昭和六二年(行ウ)第七六号裁決取消請求の帰趨を待たないで下された違法がある旨主張するところ(請求原因4(一))右事件で原告が取消しを求めている裁決の原処分が原告の昭和五七年分所得税に関する更正及び過少申告加算税賦課決定であることは当事者間に争いがない。

ところで、国税に関する処分について審査請求があった場合、裁決を行う時期は、裁決庁の裁量に委ねられており、必ずしも不服の対象である行政処分と関連する他の行政処分についての裁判の帰趨を待つ必要はないものである。まして、右の別件訴訟で原告が取消しを求めているのは原告に対する課税処分ではなく、それに対する審査裁決であるから、被告が右別件訴訟の帰趨を待たないで本件裁決を下したからといって、これを違法視することはできない。

二  原告は、本件裁決中、昭和六一年六月二五日付け督促及び同月三日付け交付要求に関する部分について相殺により滞納がなくなったので違法である旨主張するが請求原因4(二)、右相殺の主張は本件裁決に固有の瑕疵を主張するものではないのみならず(行訴法一〇条二項参照)、国税と国に対する金銭債権とは、法律の別段の規定によらなければ、相殺できないものであるから(国税通則法一二二条)、右主張はそれ自体、失当である。

三  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田幸夫)

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